2019年12月末に中国の武漢で原因不明の肺炎の症例が報告されて以来、新型コロナウイルスSARS-CoV-2による感染症COVID-19が全世界で流行しています。2020年3月末、COVID-19の拡大に伴い病院機能が制限されつつある中、慶應義塾大学病院の医療スタッフはリスクの高い状況下で、黙々と患者さんの治療を続けていました。他の国々で医療崩壊が報じられ、わが国にもその危機が迫る中で、竹内勤常任理事、天谷雅行医学部長、北川雄光病院長のリーダーシップのもと、COVID-19の病態解明、診断そして治療などを支援できる研究体制を構築しようという機運が生まれました。そして、慶應義塾大学医学部が持つ専門性で医療現場のニーズを埋めることを目的として、基礎と臨床の研究者が集い、第1回のCOVID-19研究チーム会議が4月2日に開催されました。中和抗体の検出と血漿治療を目標においてプロジェクトが始動しましたが、すでに3月から活動していた疫学チームとの合流、新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム配列解析チームの参加などがあり、150名を超える研究チームに発展していきました。COVID-19研究チームWeb会議が毎週開かれ、具体的な成果が出ています。更にこのWeb会議以外にも、COVID-19対策の基礎・臨床研究が信濃町キャンパスで複数生まれてきています。これらを総称して「慶應ドンネルプロジェクト」と呼ぶことが、天谷医学部長から提案されました。
「慶應ドンネルプロジェクト」は、COVID-19の感染拡⼤をきっかけに、北⾥柴三郎の原点を再確認し、感染・免疫・炎症に関する研究を加速し、⼈材を育成するプロジェクトです。新型コロナウイルスの対する中和抗体検出や血漿治療の計画から思い起こされたのは、破傷風の血清療法を確立した初代医学部長・病院長の北里柴三郎でした。弟子たちから敬意の念を込めて、「ドンネル先生」と呼ばれていたという逸話は、北里柴三郎が「雷親父」的存在だったことを親近感を持って伝えています。ドンネルはドイツ語でカミナリを意味する言葉であり、医学生は皆、ドイツ語を解する時代でした。こうして原点に立ち返ることで生じた求心力により、COVID-19研究の推進力が生まれました。進行中のドンネルプロジェクトの一端をご紹介します。