大西研究室を中核とするハプティクス研究センターでは、これからの成熟社会においてキーテクノロジーとなる、ハプティクスという力触覚(りきしょっかく)の伝達技術を世界で初めて実現しました。そして、この力触覚の伝達、遠隔操作、再現を可能にするハプティクスの基本原理は慶應義塾大学により特許化されています。
このハプティクス研究センターでは、リアルハプティクス技術を応用した新しいソリューションを創出することを目指し、学外とも連携してさまざまな融合的研究開発を行っています。
ハプティクスとは「利用者に力、振動、動きなどを与えることで皮膚感覚フィードバックを得る技術」であると国際ハプティクス学会で定義されています。一方、リアルハプティクスとは、私たち人間が押したり、握ったり、さすったりして硬さや弾力、動きを感じて得る情報を物体と双方向で伝送し、力触覚を再現する技術です。この力触覚は人間の優れた判断力と柔軟さを支えている本能的感覚です。これによって人間はキャッチボールをしたり、ポテトチップスを口に運んだりする動作がスムーズに行え、また「マジックテープをはがす」感触や「綿」「風船」「スポンジ」の弾力を感じ分けたり、足裏に伝わる「砂利道」や「ゴムで滑りにくい床」の感覚、「何かが当たる」あるいは「不意に引っ張られる」衝撃を感じ、瞬時に最適な行動姿勢を調整したりすることができます。
機械には、こうしたリラックスして構える「柔らかい運動」=「力覚を実現すること」が難しく、最先端のロボットでも、「硬い運動」しかできないため、ボールが掴めず、ポテトチップスをアームに挟んでもたちまち割ってしまいます。力のコントロールができない危険性ゆえに、一般社会の現場にサービスロボットが広がらない障壁ともなっていました。
動作には、必ず相反する2つの対等の働き、硬い運動(位置制御)と柔らかい運動(力制御)があり、この矛盾する2つを同時に達成して問題を完全解決したのが、ハプティクスの技術です。革新的理論と高速ICT(情報通信技術)により、従来のロボットに抜け落ちていた力触覚を装置に実装し、人工実現させました。優しく触れられる、柔らかいロボットの誕生です。
このソフトロボティクスの技術を用いれば、力触覚の長距離伝達、縮小・増幅、記録コード化による再現も可能になり、社会での活躍場面が広がります。