新型コロナウイルスのワクチン開発につながる、メッセンジャーRNAの基礎研究で大きな貢献をされたカタリン・カリコ博士が、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞されました。カリコ氏は2021年に第26回慶應医学賞を受賞され、2022年4月には来塾され、三田キャンパスにおいて、私も土曜日のランチをカリコ氏と一緒にゆっくりと楽しむ機会に恵まれました。また、2022年9〜10月には、信濃町キャンパスにて「カリコー・カタリン展」(主催:ハンガリー大使館、協力:慶應義塾大学医学部)が開催されました。そのオープニングセレモニーはハンガリーの文化・イノベーション省大臣も出席される立派なものでした。
慶應義塾では、2021年6月から三田キャンパスにおいて、大学としては最大規模のワクチン職域接種を実施し、これにより塾生のキャンパスライフが正常化され、留学予定者の渡航が可能になりました。このときのワクチンもカリコ博士らの研究成果によるものであり、慶應義塾から心からの謝意をお伝えしました。
一つ残念だったことがあるとすれば、カリコ博士が三田を訪問された2022年4月は、実に2年ぶりに対面授業が全面再開された時であり、そのタイミングではカリコ博士と塾生たちとの交流が事前に計画できなかったことです。カリコ博士のここまでの人生は文字通り波瀾万丈です。詳細は『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ社 2021年)のとおりですが、ご出身はハンガリーで、アメリカに渡られて基礎研究に没頭されました。その道は平坦ではなく、研究資金が枯渇するなかでノーベル賞につながる研究を完遂されました。しかし、カリコ博士のお人柄は目を見張るもので、すべての苦労を明るく楽しい思い出に変えてしまうユーモアと、科学者としての好奇心に満ち溢れた話しぶりは、実に堂々とされたものでした。それだけに塾生たちとの直接の交流が実施できなかったのは残念でした。是非、そのような機会を将来的に企画したいと思います。
なお、カリコ博士の来塾と展覧会開催は、パルノビチ ノルバート 駐日ハンガリー大使(当時)と、ハンガリー大使館の皆様のご協力によって実現したものです。