野球部の「常識に対する反骨精神」
時間が経つにつれて深めている感慨は、今回の優勝は、一世紀を超えて慶應義塾が大切にして来た塾のスポーツの在り方、そして「エンジョイ・ベースボール」を本当の意味で継承し、発展させて来たことによる優勝であったということです。
慶應の野球の本質を「エンジョイ・ベースボール」として再確認したのは、体育会野球部の監督を務め、野球殿堂にも入っている前田祐吉さんです。その前田さんのノートには、エンジョイ・ベースボールについてのメモがあります。そこにはこうあります。
1.各人がベストを尽す
2.チームメイトに気配り
3.独自のものを創造する
4.明るく堂々と勝つ
そしてまた、別のページには、この「3.独自のものを創造する」の代わりに「独創の楽しみ 常識に対する反骨精神」とあるのです。みんなが常識と思って当たり前に受け入れていることを当たり前とせず、本当にそうだろうかと疑って考え、そしてそれをひっくり返していく、そしてそれによって勝つ、その楽しさ、ということです。今回、しばしば「常識を変える」という言葉が聞かれましたが、まさに前田さんのメモと重なります。
前田さんは、塾の野球の本質をエンジョイ・ベースボールの一語に集約するにあたって、草創期の野球部を担った方達にも話を聞いたといいます。107年前の優勝時の普通部監督腰本寿さん、初代の大学野球部監督三宅大輔さんらの著述を見ると、実際に精神野球と一線を画したエンジョイ・ベースボールの思想を見出すことが出来ます。そして更に遡れば、福澤先生の、科学的な思考、疑いの精神を重視する「実学」の思想につながるものだと言ってよいと思います。